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見取り稽古

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  【習う】  見取り稽古
 「見取り稽古」という言葉がある。審査や射会の折に、矢渡しや模範射礼が行われるが、「見取り稽古をしてください」と言われ、大勢の弓人が正坐して拝見し勉強する。
 この見取り稽古、最近は気軽に言われるようになった気がする。そもそも、習うことのはじめは見て覚え、真似るところから始まるから、見ることは基本である。しかし、弓道は武道である。武道の底には武士の技、つまり、生と死を分かつ技の鍛錬がある。自分の技を人に見せることは、基本的にはありえない事なのである。
 同門の道場でもそうであり、先輩や高段者の練習を正面に座って見るということは無い。そもそも正面は先生、師範の席であり、門人が座れるところではない。また、道場によっては、落ちにも立たせないところがあると聞く。落ちは師範が立つ所と決まっているのである。そこで、門人は控えにいるときに盗み見る。時には、座る位置を静かに移動し自分の見たいところが見える処に座り直したりもする。決して立って見たり、道場内で近づいて見たりしないのがマナー。まして射手の後ろに立って射手の狙いや矢筋を見る事などを勝手にやってはいけない。
 道具も同じである。他人の弓や弽に触ったり見たりするのはその人の技量をはかる事、技を盗むことである。道具を傷めたりするのを心配して遠慮するのではない。基本的には失礼なことなのである。


 最近は携帯電話やデジタルカメラで簡単に写真が撮れる時代であるが、どんなに参考にしたい先輩であっても許可無く写真を撮るのは関心しない。射は一期一会である。射手は一射ごとにその内容を確認して練習しているのであるから、むやみに写真に撮られるのは快いものではない。射手が後で一緒に写真を見て研究したり、大会や射会などで記録や記念にするために撮る以外は遠慮するものだと思うがいかがであろうか。


 では、見てはいけないのかというと、見ないといけない。見て覚え、静かに先輩の技を盗んだり何を練習しているのかを考えて自分の練習に採り入れたりする。高段者の方が道場で練習しているときに、見ないでおしゃべりでもしていたら、それこそ、“練習しない奴”と笑われるのである。だから、控えで休み、仲間と話をしていても、目は道場を見、耳は弦音を聞き、息合いを感じながら休憩するのである。


 さて、習うことの基本は見て覚え、先生の射を映すことであるが、見るということはとてもおそろしい事だと思う。私は焼き物が好きで、時々陶器店を覗いては「こうゆう器でお茶を飲みたいな」とか、「この杯で一杯やりたいな」とため息混じりに見ることがある。特別な知識もないのだが、不思議なもので見続けていると、良いものに目が留まるようになり、それほどではない物は素通りするようになる。良い器の前に立つと、何か音が聞こえて来るような感じ、足が抑えられてその場を離れられないような感じがするし、そうでないものは、なにかざらついた口の中が苦いような気がするのである。もっとも良いものなのだろうが、何がよいのかよく分らない場合もある。そうゆう場合はその器が私に何を教えてくれるのかを考えるようにじっくり見なければならない。器に教えてもらうのである。
 この見るという行為は不思議なもので、よくないものを見続けていても良いものは決して分らない。よくないものと、良いものの比較であるなら、よくないものの何処がよくないのかが分れば、良いものも分るような気がするが、そうゆう事では決してないのである。良いもの、本物を見続けて自分の目に焼き付けることで初めて良いものとそうでないものとの違い、それらが発する気の違いを感じることができるようになるのである。見ること、映すことの不思議である。


 弓道も同様であると思う。先生の射を見て習い、映すようにしていれば自然と身に沁みてくるものであり、射会や審査で他の上手な人の射を見ても、それが分かるようになってくる。
 見取り稽古の最も大切なところは、見て映すことで、射が沁みてくることだと思う。


 見取り稽古の場合、もう一つ大切なことがある。それは、不具合のある射を見てなぜそうなっているのか、どうすれば直すことができるのかを考えながら見る稽古である。これは、経験のいる作業ではあるが、初心者のころから仲間の練習を見て自分の反省にしたり、後輩の指導をする場合を想定して自問することで、経験を積むことができる。骨格や体型、性格など射は一人一人違うから、ある程度後輩や仲間に指導する立場になる人には必要な稽古である。ただし、悪い器を見ても良い器が分らないのと同じで、この稽古で自分が上手になるかといったらそうではない。やはり、先生の射を見取り稽古させていただくのが本筋である。


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