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弓道教本

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 【教本を読む】
 弓道には素晴らしい本が沢山あり、本を読むことが好きな人間にはとても楽しいものである。全日本で活躍する先生や範士の先生の書かれた本などそれぞれの弓道への思いを知る事ができるし、射技についても練習の工夫などを知って参考にすることも出来る。古い本を武道関係を得意とする古書店巡りをして買い求めるのも楽しいし、ネットオークションに時々古い弓術書が出てくることもある。弓道の本というだけで色々な楽しみ方がある。ただしネットオークションの場合、法外な値段がつけられている事も多いから、安易に飛びつかないほうが懸命だろうが、どういう経緯で出てきたのか想像するのも楽しい。


 さて、私たちは全日本弓道連盟が編纂した『弓道教本第1巻(射法篇)』を参考書として読み、学科試験のある六段審査までここから出題される。まさに基本中の基本の教本である。
 ところがこの教本、私が最初に読んだときにはなんて読みにくい本なんだろうと思ったし、今でこそあまり感じなくなったが決して分りやすい本だとは思えない。内容が難しいのは仕方がないのであるが、読みにくいと感じているのは私だけの感想であろうか。


 『弓道教本第1巻』は射法篇となっていて、口絵写真で射法制定委員の紹介と伊勢神宮、明治神宮、京都済寧館の各弓道場の紹介があり、礼記―射義―、射法訓(吉見順正)が書かれている。さあ、此処で困る。編纂当時の弓道界では知っていて当たり前のことだったのかもしれないが、射法制定委員の先生方がどのような方なのか全く紹介がないのである。あとがきにも無い。これは『弓道教本第1巻』の特徴であり、射法制定時の困難を示しているとみるのは深読みだろうか。二巻目以降は、射技詳説の項で、各先生の名前とともに射技の説明がされているし、あとがきに先生の弓歴も紹介されているから、先生がたの書かれた本文を読むときに大変参考になる。


 次に、『礼記射義』と『射法訓』であるが、これも現代の初心者には不案内である。
 まず『礼記射義』。今の若い人たちで、『礼記』が儒家の書とすぐ分る人はいるだろうか。「儒教」を確立した孔子(紀元前551年‐紀元前479年、春秋時代)は『論語』でよく知られているが、『礼記』は儒教の根幹である「礼」について書かれた書でその成立は孔子より古い。そして清朝まで中国の国教として人々の生活とともにあった教えである。科挙(598年〜1905年、隋から清の時代に行われた官僚登用試験)では儒教の知識を問い、試験には弓術もあり孔子もまた弓の名手であったと伝えられている。『礼記射義』は『礼記』49篇のうちの46篇にあるが、なぜその「礼」を説く『礼記』に「射義」が書かれているのか、実はこのことが重要である。
  『射法訓』、こちらは教本を読み進むと、『射法篇』で宇野要三郎先生の三位一体の項で吉見順正の遺訓として解説されている。宇野先生の解説はそれ自体理解を深く読まなければならないのだが、書物の構成としてはいかがなものかと考えるのである。
 『礼記射義』と『射法訓』の解説をもうけていただいたほうが、背景とともに理解しやすいのではないかと思う。


 さて、書物の構成という点でこの『弓道教本第1巻』を読み難くしている点を考える。教本は序論と射法篇で構成され、射法篇の最初にある宇野先生の三位一体と礼記と射法訓の解説に続いて基本体について書かれている。基本体は重要であり、姿勢、動作と詳細に書かれているのはいいのだが、突然、肌ぬぎ、肌いれが書かれ、読むほうとしては戸惑う。しかもその後に、矢番えが続き、射法・射技の基本と続く。肌ぬぎ、肌いれは後に来る射礼のところでも良いであろうと思うがいかがなものであろうか。また、射礼は射法篇の中に置くのではなく、射礼篇として射法と同格に上げるほうが射礼の意味としても教本の構成としてもよいのではないかと愚考する。
 

 『弓道教本第1巻』は、戦後日本の武道がGHQの管理のもと一時活動を停止させられるなど、時代の混乱と反省をばねに弓道界の先輩方によって作られたものである。そこには、これからの日本の弓道をどう発展させてゆくのかという切実な思いが読み取れるし、そのための一つとして流派の事を少しでも抑えながら弓道界としての道を示したいという試みの書でもある。そして『弓道教本第1巻』が成功したのは、改訂されながら今に生きていることで証明されていると思う。


 問題と感じるところを書いたが、教本を否定しているものではないし、多くの弓道人に第1巻はもちろん第4巻まで、また、『介添え』や『襷さばき』などの副読本もよく読んでもらいたいと思っている。
 そして、教本を読むときには、誰がどのような思いで書いているかをよく考えて読んでいただきたい。たとえば、第1巻は流派の事を抑えながら書かれているが、第2巻以降は各先生の弓歴を参考にしながら読むと明らかに流派による違いが見えてくる。そこには、先生方の教えを伝え残したいという強い願いがあるように思う。現代の教本の意義をよく考える必要があるのではないかと思うのである。さらに言えば、どのような弓歴をもち、流派を学ばれた先生であるかを理解しないと、書かれている教えが正しく読み解けないということもある。私たちは、教本を読むときにそのような事情をよく注意する必要があると思う。
 浅学の私が、大先輩の先生方が書かれた教本について、意見を言うのは失礼な話かとも思うが、敬意をもつことと、問題意識を持つことは別の事であると考えるので、あえて恥をさらした。お叱りを受けることが出来れば幸甚である。


 『礼記射義』と『射法訓』については、故松井巌先生により研究がなされており『道の弓』として出版されています。


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