| 【審査を受ける】 |
【はじめに】
審査は、日ごろの練習の成果を見ていただくもので、実力と可能性を評価していただくものである。上手に引いたり、的に中てて「これだけのことができます。レベルに達しているから何段をください」といって臨むものではない。
そもそも審査員の先生は、経験も眼力も高く、受審者がそのときだけつくろっても看破する。また、的に中ったからよしとするものではない。もっとも、中らなければ合格させたくても○のつけようがないので、狙いは確実にする必要があるのは当然である。
審査にあたっては、「これが今の自分ですからどうぞ見てください」という気持ちで臨むのがよい。
【澄まし】
審査の準備として最も大切なのは「澄まし」である。射場に入る前の不安や気負いを取り除き、あるがままの自分を静かに現ずることが重要である。そのためには、道具の準備、服装、学科試験の準備などをきちんと確認することが大切で、チェック項目をつくり心に思い残すことの無いよう準備する。不安や準備不足があっては射に集中できないし、なにより、出来ることをやらずに審査に臨むのは不遜であり油断でありもったいないことである。
【緊張】
緊張は楽しむのがよい。そもそも審査に向けて練習し大切な時間と審査料を納めて受けるのであるから緊張しないわけがない。大切なのは、その緊張が「澄まし」とともにある静謐とした良い緊張であるかどうかであり、不安や準備不足からくる緊張であってはならない。適度な緊張のなかで引く射は漫然としたものを排し凛ととしたものを現ずる。
緊張からか受審者どうしでおしゃべりをする者がいるが、これは厳に慎まなければならない。気が乱れて射に影響するばかりか、相手はもとより周りの受審者にも迷惑である。挨拶をしたら、静かに黙して相手からも話しかけられないようにするのがよい。
【体配・行射】
射技審査は入場から始まり退場するまでが対象で、逐一見られている。体配の一足一呼吸をおろそかにしてはならない。審査員は射手が息合いで体配をおこなっているかを自ら呼吸をあわせて審査するほどである。審査会場でいきなり出来るものではないから、日々の練習で身に染込ませるのがよい。動作一つ一つは呼吸にあわせ、「決め」をつくり審査員に見てもらいわかってもらうよう心がける。慣れた動作だからといって漫然と流れてしまうとだらしなく見える。
一つ一つの動作に残心があると理解したい。行射では「中てたい」「上手く引きたい」といった気持ちを持つのは仕方のないことであり、欲のないところに工夫や上達はないから、この気持ちはこれでよい。ただ、気持ちにとらわれると汚い射になる。審査ではこのような気持ちを出来る限り腹の底にしまって何も考えないようにするのがよい。
何も考えないというのは、欲を抑え迷いを捨てることである。射法八節にのっとって、足踏みからはじまり、手の内の具合や弽の具合、引き分けでの力の配分、会での詰め合いと伸び合い、と確認しながら引くのがよい。射手が心の中で確認しながら引くと審査員の確認と呼応し、審査員に「わかって引いているな」と伝わる。体配での「決め」(残心)と同様である。高段者・称号者の審査ではその確認がどれほど身に備わって意識下に沁みているかを見られる。高段者になってまで、“私はここを確認していますよ”などと引いているようでは情けない。晴れの舞台である。踊るように引きたいものである。
【失】
準備をし、注意をして行射しても、時として筈こぼれや弦切れをすることがある。このような「失」のときでもあきらめてはいけない。「失」をしたら正しい処置をすることが大切で、審査員は処置が正しく行われているかを審査する。なにより、射手が「失」をしたことであきらめてしまうということは、自ら放棄したことであり、審査を受ける態度ではなくなる。退場するまで精一杯のことをするのが誠をつくすということである。
「失」ではないが、甲矢が的に中らなかった場合も同様である。「失敗した」「残念」といった気持ちは態度に表れるとともに、乙矢にも影響する。心の底にとどめ、一箭に集中することが大切である。
【他の射手の失敗】
行射では、大前の先導にあわせ射手どうしが呼吸を合わせることが重要である。しかし、他の射手が体配で間違った場合にはこれに合わせる必要はない。呼吸が合わないまま急いで進まれたり、揖をせず射位に進んだり、本座や射位を大きく間違って座った場合には続く射手はこれに習う必要はない。ただし、同じ立ちの調和を乱す事のないよう心がけなければならない。
どのように修正するかも大切なポイントである。高段者の審査でも、肌脱ぎをせずに本座から射位に進もうとしたり、弓を立てるのを間違ったりすることがたまにある。普段の練習を通じて体が自然と動くようにしながらも、意識して確認するようにするとよい。また、他の射手の失敗にもあわてないよう心の余裕を持つことが大切である。
【学科】
学科試験は普段から、『弓道教本第1巻』をよく読んでいれば問題はない。射技や体配についての問題にも、普段の練習を思い浮かべながら、教本に書かれていることを思い出して書けばよい。ただ、独自の理屈や意見を書くのはいけない。教本に教えられていること、キーワードを用いて回答するように注意する。
以前は、『弓道誌』に学科問題が掲載され模範的回答が紹介されていたが、最近は無い。復活を望むところだ。受審者どうし先輩などから情報を集めると出題傾向が分るから、事前勉強をするのも大切である。勉強する際には、問題と回答を何回も紙に書き、書いたら音読するようにする。これを何回か繰り返すと手と耳を使って記憶する事が出来、効果がある。筆記具も試験と同じように鉛筆を使う。
【まとめ】
審査は弓道の修練を重ねてゆくための重要な節目である。自分と向き合う武道であるから、段位が高くなったから称号をもらったからといって、他の射手と比べて勝っているわけではない。段位には段位に応じた射があり、それを精一杯行い、自分に目標を課しているかが大切で、その節目に審査を通じて確認していただくのである。 審査は段位や称号をもらうために受けるのではなく、普段の練習の成果、将来への可能性を見ていただき、評価をいただくものである。その意味においても、気負い勇むことなく、ありのままの自分を見ていただくという謙虚な気持ちと、精一杯のことをするという礼を尽くした姿勢が大切である。審査員は、決して落とすために見ているのではなく、射手のよいところを見たいと願って審査している。これに応える意味でも、至誠の心を肝に銘じ、体配行射を行い、悔いのない、自らに恥じることのない審査を受けていただきたい。
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